入居者様に「今日は忙しくて、疲れた」と、言ってもらいたい。
「今日のお昼はね、みんなで回転寿司を食べにいくのよ。」
パステルカラーの色調に彩られた施設は、大きな窓から陽射しがさんさんと注ぎ込む。
玄関先に並んだ3台のワゴンに乗り込む、入居者の皆さんと、それをサポートする介護士たち。
宇都宮市若松原にある「さわやかすずめのみや」、いつもの日常の風景。
毎日大小あれどなんらかのイベントがあり、
施設スタッフの皆さんはいつでも、変わらぬ笑顔で出迎えてくれる。
入居者様を車内に誘導しつつ、数台の車イスを積み込んで、ひっきりなしに動く介護士たち。
忙しさ、それを上回る「とびきりの笑顔」と「元気な挨拶」も、
株式会社さわやか倶楽部のひとつの「日常」なのかもしれない。
「さわやかが目指している日常って、普段となんら変わりなく、
むしろ、入居者様には『忙しくて、今日は疲れた』と
言っていただくのが理想なんです。」
とは、栃木・埼玉エリアを束ねる原野エリアマネージャー。
「弊社には月1回の『さわやか会議』というのがあって、
入居者様メインで司会進行され、見たいもの、食べたいもの、
来てほしいボランティア企画、などを決めていくんですよ。」
まぐろの解体ショー、手品ショー、ケータリング販売、
クリスマスにはチキンの丸焼き、バレンタインのチョコフォンデュパーティー、
ケーキバイキング、秋には屋外でさんまの網焼き。
これまでに実施されたイベントは、紹介しきれないほど。
これ以外にも1日の日課として、食器洗い、米とぎ、
併設の畑で収穫した野菜を具材にしてのお味噌汁づくりなども
入居者様自身の日常の仕事になっている。
さらに、趣味を生かしたサークル活動も盛んに行われる。
囲碁将棋、カラオケ、園芸、書道や手芸…
中には師範クラス(?)の達人もいらっしゃるとか…
今日も朝から「活力朝礼」、エイエイオー。
さわやか倶楽部の毎朝は、とても忙しく始まる。
なんと入居者様・スタッフ全員で1Fフロアに集まり、
発声・ラジオ体操・カラオケをスタート。
最後は「エイエイオー」の掛け声と共に、「拍手」で終了。
その名もまさに、『活力朝礼』。毎朝の恒例イベントだ。
「もちろん、強制はしません。でも出来る限り、ご参加していただけるよう
アプローチは頑張って続けます(笑)。
フロアに降りてきてもらう、それだけでも十分なリハビリになりますし、
また、人前に出ることで身だしなみの意識も芽生えて、ちょっとした緊張感も生まれますよね?
そんな中で、生活の質を向上していただければ…」
助け船を出さないと命が危ない、
なんぼかかってもかまわん!
株式会社さわやか倶楽部の母体、ウチヤマホールディングス(HD)は、
北九州市発祥のグループ企業。
とりわけ介護部門に関して揺るぎない独自の理念は、日本国内でも注目を浴び、
北九州から全国へ次々と拡大、東証一部上場を果たした。
元々は、地元福岡県内で19の介護施設を運営。
そんな中、県外進出の出発点は意外にも、遠く離れた東北の秋田県。
そこには、その後のさわやか倶楽部の発展を思わせる、
象徴的なストーリーがあった。
舞台は秋田県仙北市。
そこにある介護付き有料老人ホームの運営難について、
遠く離れた九州のウチヤマHDに打診があったのは平成19年のこと。
社員の給与は数か月も滞っていた窮地の状態、そんな中で職員たちは自腹を切って、
パンやおにぎりを持ち寄っての、文字通りギリギリの状態で
入居者様を支援していたそうだ。
もし買収するなら、社員のそれまでの給与保証はもちろん、
入居者様の受け入れ先を探すこと、
さらに地元での悪評判が立っている施設を請け負うとしても、
採算が取れる見込みは少ない…
問題が山積みの中、社長である内山文治氏は迷わず、
「入居者の命を守れ、なんぼかかってもかまわん、やれ!」と指示。
採算度外視で買収に踏み切った。
近隣住民を集めての説明会、
再スタートのため求人募集をしてもスタッフが集まらない…など数々の困難を乗り越え、
新施設は15か月後、なんと満床になった。
たくさんの介護施設がある中、
なぜ 「さわやか」だったんだろう。
今年入社したばかり、フレッシュな1年目の與儀(よぎ)さんに、
率直なお話を伺った。
「施設の第一印象は、壁も床もとってもカラフル。
こんなに明るい介護施設ってあるんだーって、びっくりしました。
それ以上に入居者様が皆さんイキイキされていて、
スタッフさんの笑顔がこれまで見たことがないくらい、印象的でした。」
「正直、研修で院内介護の現場を訪問したことがあるのですが、
雰囲気がまったく違いました。
なんとなく感覚かもしれないんですけど、
ここでならぜひやってみたい、学生時代に学んだことを生かしてみたい
と思って、入社を希望しました。」
館内では2階を担当している、という與儀さん。
「毎月、どの階のスタッフのサービスが一番か、
入居者様に選んでもらう、とってもユニークな制度があるんですよ。
どの階の先輩もホント、皆さん親切で、
わたしここで働いてると、元気をもらえるんです。」
目をキラキラさせながら話してくれる、
若い與儀さんを見ていると、心が洗われ、
介護の世界にこんな若手の方が活躍していること自体が、
本当に素晴らしいことだと思えてくる。
明るい職場の雰囲気の中、
スタッフ同士のオペレーションも
かなりしっかり取れている様子で、
特に出産・育児休暇を取った後に現場に復帰される
女性スタッフも多いとか。
お子さんの急な発熱や、学校行事などには
スタッフ同士で助け合ったり、
時にはちょっとの間、職場に子供を連れてきて残務を片付けたりなど、
働くママにもやさしい職場環境が整っている。
社員も宝。惜しまずかける、教育費用と時間。
現場のスタッフの意思統一を図るために、
社員の教育にかける費用と時間は惜しまない、のが
さわやか倶楽部の特徴のひとつだ。
「日本一の接遇、オペレーション」をめざし、
価値観の統一のために、毎月1度は新人研修を実施。
また、未来の幹部候補として全国で活躍する
エリア長や施設長のための海外渡航では、
ニューヨークでのチャレンジ研修として、
ハーバード大学の学生とのディベートや、シリコンバレーの見学など
たくさんの学びの場が与えられている。
研修で学んだことを介護の現場にて、
カスタマイズしつつ、
現場にフィードバックしていくことが求められる。
日本一の接遇を本気で目指す、究極のホスピタリティ。
そんな原野AMも、生粋の九州男児。
内山社長の熱い企業精神のDNAを、しっかりと受け継いでいる。
「社長は常に走ってるイメージ。
僕も九州の現場で一緒に働かせてもらってた頃は、
毎日、毎週、叱責されることも多かったし、
いまだに会議で集まる時は怒られますけど(笑)、
『業務じゃない、サービスしろ!』と言われ続けてきました。」
とはいっても、終わりのない介護の現場。
頭では分かっていても、つい、効率や自分たちのやりやすさを
優先してしまうことも大いにあるのでは、と質問してみた。
「もちろん、僕も何度も壁にぶち当たりましたよ、
でもその度に社長に言われるんです。
『どっちが大事なんか?』
『入居者様が喜ぶことをしろ!』と。
頭では十分に分かっているだけ、
言われる度に、突き刺さりましたね。」
マイナスな言葉は、口にしない。
入居者様は、「おじいちゃん・おばあちゃん」ではない、
苗字に「~さま」、と付けて呼ぶ。
「究極を言ってしまうと、行事なども、
やってもやらなくても職員の給与額は同じです。
でもそうじゃなくて、このさわやか倶楽部に入居してもらえたこと、
人生の最終章になるかもしれないこの時間を、
精一杯喜んでもらう。そこの価値観さえブレなければ
間違わないと思っていますし、そこに照準を合わせる努力をすることが
最大の貢献なんだと、叩き込まれました。」
入社から10年が経ち、現在はエリアマネージャーとして
故郷九州から、ここ栃木・埼玉エリアで活躍している原野さん。
「いまだに社長の激が、飛びますよ。」と笑う。
そんな原野AMに対する、内山社長の返答は
全国会報誌の中で、こう記されている。
『第2・第3の原野AMを発掘し、部下を育てながら、
社会貢献できる会社づくりを実行し、
自分自身さらに大きく成長できる喜びを感じていきたいのです』。
飽くなき真理の追究、さらに進化型の介護施設へ。
さわやか倶楽部は常に、全国的にも業界平均を上回る
高い入居率をキープし、支持されている。
その究極のホスピタリティはさらに進化を続け、
さまざまな形で社会へと還元。
学童保育システムを施設で引き受けたり、
九州で災害が発生した際には、入居者様を無料で引き受けた経験も。
1施設ごとに1人、海外の恵まれない子供を善意の募金でサポートする
「チャイルドスポンサーシップ」など、
例を挙げると、枚挙にいとまがない。
さらに、お膝下の九州では
文部科学省推進の革新的イノベーション創出プログラムとして、
九州大学、そしてさわやか倶楽部の3機関の「産学官」連携が実行されている。
3つの機関を組み合わせて、介護に「デザイン性」を加え、
「こんな介護施設があったらいいな」を実現していく…
たとえば、
「生涯、働けて稼げる、大型モール型の介護施設」
「好きな時に食べ、好きな時に寝られる介護施設」 など
業界にイノベーションを起こすような企画を立案中だ。
栃木・埼玉で活躍する原野AMも、こんなことを話してくれた。
「いまちょうど企画していることがあって、
毎朝の『活力朝礼』を外で
しかも近隣の方も招いてやってみようかな?って思っています。
月1~2回でもいいんですけど、マンネリ化しないように内容も変えて、
皆勤賞の方にはスタンプが溜まったらプレゼント!とか、
朝礼の後にマグロの解体ショーなんかやったりとか…
さっきまで、鹿沼の施設長と話していたとこなんですよ。」
「何のためにやるのか?」を常に追求し、
ここまで人に寄り添って、
こんなにも楽しんで仕事に取り組む姿勢は
まさに介護のプロフェッショナル。
社会貢献度の高さはもちろんだが、
介護職とは、本来はクリエイティブで、
楽しく、そして
「かっこいい仕事」なのかもしれない。
やってもやらなくても、どちらも選べる介護の現場。
「やる」と決めた以上は、手を抜かない。
経費も手間も時間も何倍もかけ、
知恵もしぼるし、汗もかく。
それでも
「より豊かで心地よい」と感じていただけるサービスを
さわやかのスタッフ達は、敢えて選択した。
何にでも本気でぶつかり、
取り組む働くスタッフ同士の絶大な信頼感が、
介護の現場をより、創造的で且つ
「暮らしを楽しむ」雰囲気に育んでいる。
毎日、しかもごく、自然に。
さわやか倶楽部さんが実践されている内容は、
これからの社会全体が目指すべき、介護の理想形とも言えるかもしれない。
(2015/5/28 matsushima)